本展『極限芸術〜死刑囚の表現〜』は
2005年から昨年まで
大道寺幸子基金に応募された全作品を集めた展覧会だ。

今回は、
2012年3月29日に死刑執行された
松田康敏さんの
残した絵画を紐解いてみる。

初年度である2005年には、彼の応募は見られない。

第2回目の2006年、彼は初めて2作品を色紙に描いて応募する。

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『つげの木』 2006年 

色紙の中央に描かれたモチーフ。
余白と絵画のバランスが絶妙だ。
ボールペンや蛍光ペンを使った色彩のセンスが感じられる。

2007年には、4作品を応募している。
引き続き全てが色紙に描いた作品。
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『まな板の上のフグ』 2007年  
まな板の上の鯉ではなく、まな板の上のフグなのだ。
毒をもった魚のフグと左下に見える包丁が
見るものをドキッとさせる。


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『無題』 2007年

この作品は、
80年代に化粧品のCMで一世を風靡した
鶴田一郎氏の模倣だが、
彼の場合 単なるコピーにとどまってはいない。

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クリックして拡大していただくと分かるが、
芯のないボールペンのようなもので
色紙に型を付け、パズルのように見せている。
何という手業の妙だろう!

また、この年に彼の死刑が確定したためか、
『日本に死刑制度がある限り』という作品も描いている。

2008年は3作品を応募。
それまでの色紙から一転して、少し大きな紙に色鉛筆で
表現の幅を広げている。

2009年は色紙と紙を併用し、7作品を応募。


2010年は、6作品を応募し、飛躍の年となっている。
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『タイムスリップ あの時代へ』 2010年 ※16枚貼りあわせ
そのうち1枚は紙を20枚繋げた大作「タイムスリップ あの時代へ」。
とにかくモチーフの選び方や構図など全てが支離滅裂なのだが、
来館者からの評判は最も高い。
作品内には
2007年の『まな板の上のフグ』で描いたあのフグも登場している。


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『アサガオの花』   2010年
特徴的なのは、大作『タイムスリップ あの時代へ』以外の
5点は全点が貼り絵作品であることだ。

本人直筆による下記のような手紙も添えられていた。

「下絵にした色紙に直にのりを付けオリガミを左り手に持ち右手に
ボールペン(使いきった芯を使う)を持ちボールペン先で、オリガミを
押しちぎりながら絵を仕上げて一つの作品になります。
結構根気の入った作品です。
バカボンのパパの顔を仕上げるのに、約半日ほどかかりますので、一枚仕上げると、
下絵から2日間ほどでしょうか!」

バカボンのパパの貼り絵ついては、
ぜひとも会場でご覧いただきたい。

明日死刑執行されるとも分からないとき、
あなたはバカボンのパパが描けるだろうか。。。

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『祈りの母』 2010年

さらに折り紙の色がないものは、コピー用紙に蛍光ペンで着色して
色を生み出しているとの記述もあり、
膨大な時間をかけ逸脱した手業が冴える。

2010年は、大作から繊細な貼り絵作品までを描き、
彼の意識がマクロからミクロにまで広がっているのは
大変興味深い。


2011年の応募は2作品。
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『生死の境』 2011年  ※20枚貼りあわせ

どらちも趣向を凝らした作品で、中でも
『生死の境』は、作品中に壮大な物語が紡がれている。
まるで世界を再構築しているかのようだ。

ちなみに、拘置所内では
(応募の際の問題だろうか)
大作を繋ぎあわせることは出来ないようで
大作は本人からの指示書をもとに基金の方が
繋ぎあわせているようだ。

本人は完成した作品を見ることはできない。
全ては、彼の頭の中で組み合されてゆく。


最後の年となる2012年は、3作品。
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 『萬年カレンダー』  2012年  
ここまで来ると、もう絵画という意識はないのかもしれない。
実用性も兼ねたカレンダー。
制約された環境の中で、紙を繋げたり、穴あけパンチの残りで
貼り合わせたりと究極のDIY作品を生み出している。


アール・ブリュットに共通する特徴的なテーマが
彼の作品にもいくつか見ることが出来る。

その上、
ルシアン・ペリー(アール・ブリュットコレクション館長)の言う
「沈黙・秘密・孤独」の三つの定義が、
日本の障がいのある人たちの制作スタイル(福祉施設のアトリエで
集団で制作されることが多い)よりも当てはまる気がする。

しかし、作品応募ということもあり
明らかに他者への視線が感じられる点で、
アール・ブリュットでは無いのかもしれない。

けれど、こんなにも心が落ち着かない表現を
僕は知らない。


鞆の津ミュージアム
櫛野 展正

 
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