たくさんのえん 〜 内海卓雄のしごと 〜

○ ごあいさつ ○

本展は、当館の母体・社会福祉法人 創樹会が運営する障害者支援施設「あゆみ苑成人寮」で暮らす内海 卓雄 (うつみ たくお)さんが生み出した様々な表現を一堂に集め、お伝えするものです。1957年生まれの内海さんは、聴覚に障害があるため声を通じた会話ができず、文字によるコミュニケーションも難しいのですが、持ち前の生活力と器用さとを存分にいかしながら、これまで多くの支援者や他の仲間たちと長らく暮らしを共にし、数々の多彩な創作的営みを日常的に続けてきました。

 最も得意で愛好する手芸では、小物入れやバッグといった日用品をはじめ、ふぞろいな円形のパッチワークをあしらった丸くて四角いクッションから、平らな立体をつなぎ合わせた独自のぬいぐるみ人形まで、丁寧な裁縫でいろいろとつくりあげていきます。それらの数は膨大なものですが、生地の縁を縫い合わすその針と糸さばきには驚くばかり。使う道具は布やテープでくるみ、自分好みにカスタマイズ。家の絵をよく描いていた時期もありました。はたまた模写をすれば、絶妙なバランスをしたかたちや文字が現れ出ます。図像に沿ってカットした紙類の切り貼りからはスクラップブックが増えていく。合間をぬってパズルに掃除、その他もろもろ。常に何やらすることだらけ。毎日忙しく手を動すうちに、その日その日が終わり、いつの間にか歳をとる。「楽しんで!」と伝える時に、英語では「Enjoy yourself!」とも言うそうですが、誰にとっても、暇や退屈という深い淵を前に自分自身を喜ばせる術を知っていることは、生きるうえでこのうえもなく大切なこと。そんなふうに、自分以外の誰に宛てられるわけでもなく延々と繰り返される活動の中で生まれたチャーミングな物体が、そうでなければ縁遠かったはずの人と人を結びつけ、誰かの喜びにつながることもあるのだから、創作というのは不思議なものとしかいいようがありません。今日も内海さんは何かに没頭し、たのしい時間をつくっています。

〈 展覧会詳細 〉
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企画展|たくさんのえん – 内海卓雄のしごと
会期|10月10日(木)~ 12月29日(日)
時間|10:00~17:00  ※ 入館|無料
休館日|月・火曜(ただし祝祭日は開館)
主催|社会福祉法人 創樹会 鞆の津ミュージアム